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ずいぶんと更新をしてなかったみたいです。この前までは更新はAsusのノートパソコンを使っていましたが、今はmacbook airを使って更新をしているあたり、隔世の感がにじみ出てます。(私事)
世間では先日テレビで放映された「天空の城ラピュタ」に連動したSNS(っていうかツイッターです)上での通称・「バルス祭り」が世間を騒がせ、ネット上のイット業界に於かれましては全力で「みんなでバルスって言って楽しもうずwwギネス記録も更新しようずww日本の力を見せつけたるでーwww」的な(絶対零度の)マーケティングを展開しており僕は全力でオルテガを読みながら「バルス」「バルス」「バルス」「バルスwwwウェーイww」「バルスwwっつかこれギネス突破したんじゃねwwwうはww」「バルス」「バルスww twitter社涙目ww」といった風に埋まっていくツイッターの画面を見ては虚ろな目をしてバケツにシェイク状になった夕餉のサバ味噌をぶちまけていた訳なんですが、まあ世間一般はたのしそうで良かったです。個人的には日の丸ナショナリズムと脊髄的反射の衆愚状態に加えて見え隠れする嫌らしいイット業界ほかのお膳立てがもたらすオーケストレーションに思わずマラリアよろしく寒気・吐き気・目眩・高熱・下痢下血・幻覚・生理不順などなどの症状をきたしてしまったりしたのも今では良い思い出です。
まあなんと言うか、それを見た直後に「ジブリの借りはジブリで返す」的な意気込みで臨んだ今作でしたが、とても良かったです。すごい僕好みの映画で、なんというかいろんな意味で心を現れたし、個人的にはバルス祭りへのアンチテーゼとして「考えて言葉を使う」っていうことが久しぶりにできそうなんでとてもうれしいです。
で、はい、キャスト&製作陣。
監督、脚本はジブリ映画には欠かせない宮崎駿監督。ネット上の民草からはやれロリコンだのやれ兵器オタクだのやれ世界破滅萌えだのさんざん言われていましたが、ええ、今作でもやっぱりロリコンだし兵器オタクだし破滅萌えだしで元気に銀幕に君臨しておられました。でもやっぱり男が主人公だとずーっと男が画面を飛び回っているので宮崎さんのロリ萌え成分は控えめであられまして、まあ世界破滅成分もそんなになく(それでもキッチリあるのですけれど)その分きっちり飛行機に情熱を注いでいらっしゃられたんで割とジブリを最初に見るならこの作品が良いのではないかしらんと思いました。もしかしたら良い意味で「ジブリっぽくない」と言えるのではないでしょうか。
で、問題なのは主人公の堀越二郎の声優がエヴァでおなじみの庵野秀明監督が声を当てているって言うことで、これは公開前から一つのエポックメイキングな出来事だったのではないでしょうか。声優の緒方恵美さんなど鑑賞したのちのひとびといわく、「最初は違和感があったが、最後には『これしかない』と思わせる感じになっている」ということでしたが、僕は映画を見ながら、「いや、最終的にはこれで良かったんだろうけど、途中の声をもうちょい若い感じに出せばもっと良かったんでないの」と至極真っ当なことを考えてしまいましたすんません。でも本当にヒロインの菜穂子と抱き合うシーンとかは庵野さんの声の朴訥な感じがすごいどっしりシーンに落ちている感じがしましたし、チョイスとしては良かったんだなあ、とちょっと涙ぐみながら思いました。(そして多分それを狙った演出が会ったんだと個人的には思いますが、とりあえず後述)

堀越二郎はすこしはにかんで、でも臆面も無く、「美しい飛行機を作りたいのです」と言い、それはきっと、当たり前のことだが機能美を指すのだろう。
限界まで無駄を削ぎ落としたからこその美しさは、もちろん飛行機岳の話ではない。洗練された無駄の無い技も、無骨だが使い倒されて最適化された道具も、すべて無駄の無さというプロフェッショナルの矜持を秘めた美しさを持っている。
そして、それは映画にも当てはまる。
そういう映画だった。

いつもみる映画と違う、と気がついたのは、まずはその以上な静寂のせいだった。

劇場に入りチケットを買って、僕はいつものようにポップコーンを齧りながら席に着いた。主に邦画のコマーシャルの耐えられないみっともなさを我慢するためにコマーシャルのあいだは一生懸命下を向いてぼりぼりとポップコーンを食べるのが購入目的なのだけれど、今日も僕はそうしてひどい、ほんとうにひどい邦画のコマーシャルに耐えていた。(たぶんガッチャマンの実写版のコマーシャルが一番ひどかったと思う。出来不出来以前に、日本人の顔はSFに向かない)
そうしてポップコーンが口に残ったまま本編に突入すると、あの喧噪が消え、ポップコーンの音だけが急に耳障りになったので、僕はひどく驚いたのだ。
この映画はそこから一貫して、静かな印象を受けるものだった。要所要所では「鳴らしどころ」ではないのか、と思うような重要なシーンでさえ、しん、と静まり、一貫して妙に「立った」庵野監督の不相応にひくい声だけがひたすら劇場に響き渡る、というようなことが何度もあった。(多分庵野さんの声を響かせるために音楽を意図的に排除しているのだろうとは思う)音楽が鳴るときでさえ、その音量はできるだけ小さく押さえられている。あるいは、関東大震災で壊滅的な被害が発生したときや、菜穂子が喀血で伏せたときですら、常にそのシーンに合わせて悲劇的、衝撃的な音楽を「鳴らさない」ことをこの映画は選択している。常に世界には一種飄々としたメロディが鳴り響き、邦画が陥りがちな「これでもかと言うほど『泣かせ』に力をいれる」という陥穽を排除しているように思われる。
ストーリーにしても、恐ろしいほど早回しで進んでいくだけではなく、決定的な瞬間を描かないことに徹底している。自分が設計した零戦が何機も飛び立っていく空を描いた夢の世界のなかで、二郎は「あのなかの一機も帰ってきませんでした」と語るが、彼らが撃墜され、翼が捥げ、人がゴミのように墜ちて死んでいくシーンは描かれていない。人間関係に注目しても、大学時代からの二郎の親友の本庄を例に考えても、恋愛関係にせよ技術関係にせよ、何らかの友情の破綻・危機が描かれるのが物語の構成の鉄板であり有効であるはずにも関わらず、それを回避している。そのような本庄との軋轢を描くことの可能性は、上司の黒川によって何度も示唆されていたにも関わらず、だ。(自分のチームの飛行機の設計スタッフに友人の本庄を欲しいと二郎が求めたのに対して、黒川は「やめておけ、同期はライバルになるぞ。 友人を失いたくはないだろう」と断っている)
この映画は、そのような一般的な映画ではある種「お決まり」となっているシーンを描かない。
もっともそれが顕著なのは菜穂子との関係だ。
菜穂子と本格的に交流するシーンは物語の中盤から描かれている。結婚の申し込みまでの性急さはあるいは映画という表現方法ゆえにしかたないこともあるのかもしれないが、しかし彼女の病弱さ、そして二郎との愛の強さを観客に決定的に見せつけ、「泣かせ」る、サナトリウム文学的な悲劇は、その最後までがこの映画で描かれることは無い。菜穂子と二郎の愛の軌跡は丁寧に丁寧に描かれ、はっとするような祝言の美しさや、病床で二郎と戯れる菜穂子のけなげさも同じようにしっかりと作り込まれている。いわばこれだけ「助走」がついたならきっと菜穂子の死というクライマックスを描くことは、感動させるためには不可欠なのであり、普通はその感動の最期をつくりあげるために二郎と菜穂子の日常は描かれるのが物語のセオリーだ。しかし、肝心の菜穂子の死は最後に示唆されるだけで、これも決して悲劇的なシーンとして個別的に描かれたりはしない。それは削ぎ落とされ、観客の想像力とリテラシーに任された領域である。
この脚本ならば、もっと観客を「泣かせ」ることも、あるいは「感動させ」ることも可能なはずだったのに、なぜ宮崎駿監督はそうしなかったのだろうか。
僕は、そのねらいが何となくこうではないか、という考えがある。
それは一番最初に述べたような「機能美」であり、この映画はきっとそのような助長なドラマツルギーを描きたい訳ではなく、あくまで(想像上の人物であるが)堀越二郎という人間を含めた、あの時代の若者のひたむきさだけを描きたかっただけだった、からではないだろうか。悲惨な時代を悲惨な時代として描き、涙を誘うのはある意味簡単で、そして手あかのついたやり方である。そうではなく、大いなる視点から敬意を込めて人間のひたむきな半生を描こうとするなら、きっと悲劇を重んじて描くべきではなく、また悲劇そのものとして表現するのも間違っているのだ。
時代の流れにも、あるいは愛する人間の困難にも負けず、二郎はいつも朴訥で、でもどこか余裕の無い声で言葉を絞り出すのは、そしてそのキャスティングに庵野監督を選び、「泣かせるコンテンツ」としてではなく、「映画」として考えて理解し、涙し、そして感動するぎりぎり可能な質量まで削ぎ落とした作品に仕上げたのは、そういうことだと僕は信じている。

「堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて」
この言葉がすべてを語っている気がしてならない。
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